土佐力舎の「力」は、海と岬と人の力
こころざしが結晶して創業となった
室戸岬に海洋深層水研究所が創設されたのは昭和から平成へと元号が移った年だった。すでに企業人として多くの実績を重ねていた竹中幸市はさっそく見学に行った。ビジネスの関心というより、室戸の海に広がるロマンを感じ取ったからにちがいない。 「そこで強い衝撃を受けました」
さまざまな研究の実態に興味しんしんとなったのだが、衝撃というのはそれではなかった。
ふと海岸に目が引かれる。そこは若いころからよく貝を採りに潜っており馴染みのある海岸である。
「ところが、かつて見たこともなかったほど海草の育ち方がほかの場所とまったく違っていたのです」
生命力にあふれていたのだ。研究のために海底深く汲み上げた深層水を、そこからふたたび海中に還しているために生じた現象と知った。つまり、深層水の底力の証明をこの目でしかと見届けたのだった。
悠久の時のなか、太陽の光の届かない海底を果てしなく移動する水。生命の故郷であることのあかしのように生物に有益な微量元素を豊富に含む水。
「人の身体にかならずいいものだと確信を持ちました。その確信は崩れることなく、どんどん強くなっていきました」
大手清涼飲料メーカー・ダイドードリンコ株式会社との固い信頼関係のもとに海洋深層水の飲料を世に送り出したのは2000(平成12)年。さらに、大学との共同研究契約によって、農産物、海産物などさまざまな分野への可能性を模索していった。 「生命のみなもとともいえる絶妙のミネラルバランスが注目され、医療の分野にも可能性が広げられています」
そうしたこころざしの結晶として創業となったのが土佐力舎である。
きりりと立つ灯台は室戸岬の心意気のように
室戸岬の突端には、白亜の灯台が端正に立っている。1899(明治34)年に初点灯され、26.5海里という日本一の到達距離を有する第一等灯台だ。大海原を見据えて佇む姿はいかにもきりりとして、この風土に生きる人びとの心意気を感じさせるかのよう。
土佐人の頑固と気骨を示す「いごっそう」という語がある。竹中幸市も絵に描いたような「いごっそう」だ。この世で決して許せないのは、と尋ねられれば、
「怠けること、ずるい考え」と断言する。手厳しい。
が、それは手に負えない気むずかしさというわけではない。頑固と気骨の底に思いがけないほどの寛容があふれているのを周囲の人間はよく知っている。土佐力舎の「力」は、海の力であり岬の力であり、そして言うまでもなく人の力である。